由香里のリゾートドレスは夕暮れの海と風に良く似合った。
マリンブルーのマキシムワンピースだった。
胸元はV字にカットされ、背中は腰まで大きく開き、細い数本紐が交差して、潮風に流れるワンピースをつなぎとめていた。。
剛一が、先にホテルに着いて、親しくしているサービス係の女性チーフに依頼して購入して、用意していたものである。
「由香里さんはスレンダーで、ボーイッシュな髪型。身長が170センチ程度。恥ずかし気で繊細な雰囲気とお聞きしていました。そういう方にふさわしいと思います。知的で、エレガントで、開放的。そしてやはりリゾートですから少しセクシーなロングなワンピースタイプを選びました。」
とチーフが言っていた。
スカートが風に舞うと、長い豊かな脚が太ももまで露わになる、スリットが入ったワンピースだった。
プールサイドに通じるロビーやテラスには日本人に混じり、アメリカ人の若いカップルや中年の夫婦、中国系のファミリーなど人種も多様だった。
リゾート客の間を、由香里は浜風にスカートをなびかせて、颯爽と歩いた。
まるで由香里が主人で、剛一が召使いのようでもあった。
プールサイドの一角、ロビーの人ごみを避けて、ハイビスカスのアロハシャツと黒のスラックス姿の白人が立っていた。
金髪で、少しぽっちゃりした背の高い男だった。
いかにもアメリカのエスタブリッシュメントといった風体であった。
「ハロー」と剛一が声をかけると、子供のような笑顔で答えた。
「オオ! アーユー ミスター キリノ?」
「イエス。 アンド アーユー ジョージ ルーカス?」剛一が訊いた。
「イエス!」
ルーカスはアメリカ人特有の大げさなジェスチャーを交えて、剛一の手を握った。
「このお嬢さんは?」
ルーカスが隣の由香里に視線を向けて訊いた。
「マイドーター」
剛一は、私の娘です、と言って由香里を紹介した。
「オオ、ビューティフル レディ!!」
ルーカスはやはり大げさに由香里を褒めたたえた。
剛一を中に挟んで三人はサクソホン演奏がよく聞こえそうなテーブルに並んで座った。
ボーイが飲み物注文を聞きに来た。
剛一は沖縄焼酎古酒の水割り、由香里はゴーヤーとシークヮーサーのカクテル、ルーカスはバーボンの水割りを頼んだ。
アルコールを交えながらルーカスは剛一に会えた喜びを伝えた。
剛一も、かねがねルーカスの噂は聞いており、わざわざ会いに来てくれたことの礼と喜びを伝えた。
二人の会話に由香里はあまり興味がわかなかった。
日本のIT産業の未来、ワールドトラディッショナル研究会の勢力図、最近の投資ファンドの動向等々であった。
由香里は二人を無視して、サクソホンの演奏に耳を傾け、東シナ海の夕日に見入った。
二人の話がひと段落したのか
「今日はまずあなたの人となりを知りたいのです」とルーカス。
「私もです」と、剛一。
そう言って二人は再び軽い握手をした。
「おーい、タケシ君」
演奏が終わったころ、突然剛一がプールサイドの方に向かって手を振って人を呼んだ。
呼ばれてやってきたのは、昼間、空港からホテルまで車を運転していた神秘的な瞳の若い男だった。
「桐野さん、楽しんでますか?」男が言った。
「これからだよ」剛一が応えた。
剛一がルーカスと由香里にタケシを紹介した。
金城猛。
年齢は三十代前半。ハンサムである。神秘的な瞳が人を惹きつける。
このリゾートホテルの観光チーフである。
島の散策スポットや、観光案内、近くにある海中公園の利用方法、ひいてはヨットでの手軽なクルージング等、要はリゾートの遊びの総責任者である。
顔は日に焼けて引き締まっていて、神秘的な瞳がいたずらっぽく輝いている。
今、猛はピンクのワイシャツを着て前を広げ、ぜい肉の無い胸元には金の細いネックレスが輝いている。
セクシーな雰囲気がリゾートホテルにぴったりとマッチしている。
「猛です。よろしく」
そう言って、彼はルーカスと由香里に、それぞれ握手で答えた。
猛は、由香里にはさりげない視線を投げるだけだった。
しかし、ルーカスと握手する時、猛の目が鋭くルーカスの内部を射貫くように光った。
そして、握手するルーカスの顔が、ぱっと赤らんだように由香里には見えた。
「ルーカス、せっかくの沖縄です。猛に色々案内してもらいましょう。彼は遊びのプロなんだ」
「オーケイ」ルーカスが言った。
「任せてください」猛が、ねっとりした目でルーカスに微笑んだ。