脱出に向けて、蘭と凜は素早くガウンを脱ぎ捨てた。
成熟した蘭の体が弾むように現れた。
凜の華奢な身体は、鞭のようにしなった。
また抱きたくなるような二人の体だった。
二人は俺の目の前でテキパキと服を着て荷物をまとめた。
俺はやぼったい下着にタクシーの制服のよれよれのズボンをはいた。
俺たちは、五分足らずで、先ほど入って来たカウンター裏の秘密の小さな扉に潜り込んだ。
奥は狭い通路になっていて、幾度も左右に曲がり、アップダウンを繰り返し、やがてフロントの外れの目立たない、従業員専用風の小さなドアへと続いていた。
ドアを出ると、そこは建物の死角になっていて、人気のない路地に続いていた。
熱い八月の夜が始まっていた。
熱帯夜なのだろう。気温と湿度が高く、湿り気を含んだねっとりした空気が首筋に纏わりついた。
「ここはどこへ向かっているの?」
蘭が、小走りながら聞いた。
「分からない。さっきの通路で方向感覚が狂った。」
俺は怒鳴るように言った。
「とにかく、どこかでタクシーを拾うのよ!!」凜が言った。
暫く走るとやっと地理が判別できるような地点に出た。
大阪城公園の外周の外れの広い道だった。
「あっちだ」
俺は遠くに見える交差点を指差していった。ビルが林立し、高速道路が交差する街角だった。三人は、タクシーを求めて走った。
俺の息が上がってきた。
女達は平気な顔で走り続けていた。
たいしたスタミナだった。
俺は彼女たちの後から追いかける形になった。ミニスカートから覗く蘭の脚が艶やかに翻っていた。凜の華奢な背中の動きがセクシーだった。
俺はだらしのないメタボの犬の様にドタドタとアスファルトを蹴っていた。
交差点に出た。
その時、俺のスマホが鳴った。
「松岡さん?」あの桐野という男だった。
「そうだ」
「無事だったんだね。奴らが君たちの部屋を襲ったよ。コックに化けてね。支配人から電話があった。コックたちは縛られて物置に放り込まれていたらしい。」
「危機一髪だったのか」
「凜に替わってくれ」
おれは大声で凜を呼び止め、電話を代わった。
凜はスマホを耳に当てて、時々頷いて、何かを話していた。
「分かりました」
そう言って電話を切り、俺にスマホを返した。
蘭がタクシーを拾ったところだった。