私は十号。超高級娼婦。青髭の館。

私は十号 10.デッキの上で

軽く喉を潤した後、武史はコクピットに向かい船のエンジンをかけた。希望号はエンジン走行でRマリーナを出港して相模湾を南西へ舵を切った。
目指すのは静岡県のH島だと武史が説明した。
小さな島で、磯釣りやダイビング等が盛んで、隠れた観光スポットだという。

ヨットハーバーのポール群が視界から消え、遠くに漁港や家並みそして町の建物群が小さな積み木のパパノラマとなって広がった。それらもさらに遠のき、くすんだ地平線となった。海は大平洋の群青色へと変わっていった。

「中を案内しよう」
パパが二人を下のキャビンへと誘った。デッキの狭い階段を降りると、優雅なリビング兼ダイニングが広がった。十人程度のパーティーが開ける広さだ。

こじんまりとしているが、調度品は高級ホテル並みで、白とベージュを基調にし、金色に縁どられている。テーブルはマホガニー製で深みのある赤。左右には食事するにもちょうど良い高さの、水色のレザーのソファーが誂えてある。

「ここも素敵だよ」
パパがリビングの奥、船首側の扉を開く。
そこは広々とした寝室だった。
大きなダブルベッド、ふっくらとした枕が二つ、気持ちよさそうなシーツが敷かれたる。両の窓際は狭いが視界は広い。窓の外には群青の海と水平線が展望され、巨大な白衣熱した積乱雲が競り上がっている。

「さらにここにもゲストルームがあるんだ」
次いで、リビングの後方部の扉を開く。
やはり広々とした寝室が広がり、ここはツインの部屋となっている。
「工夫して寝れば、12人程度はこの船で寝泊まりできるよ。
パパが得意げに言う。

「パパはこの船に何人女性を連れ込んだの?」十号が意地悪な目つきで問う。
「ほんの数人だよ。50人程度かな?」
「えっ、ほんと?」
夏希が軽蔑した目つきを向ける。
「だけど寝てはいない」パパが笑って答える。
「ほんと?」
十号は意地悪な表情を崩さずに笑っている。

パパはテーブルの前に移動し、奥の冷蔵庫を開ける。
中には、飲み物類や、パックされ整頓された、肉、野菜、果実類が整然と並べられている。

「美味しそうね」佳南が声を上げる。
するとパパは佳南に近づき、腰に手を回し、しなやかな体を抱き寄せて言った。
「夏希が一番美味しいよ」

パパは佳南の唇を吸い、ガウンの中をまさぐり、小さなブラジャーの中に手を入れた。
夏希が困ったように十号を見た。でもその顔は嬉しそうだった。
若い乳房がプルンと飛び出した。
パパのぬめる舌がその先端に伸びた。

「私、デッキで海を見て来るわ」
十号はそう言ってそそくさとその場を離れ、狭い階段を上り、デッキへと出た。
光が降り注ぎ潮風が頬を撫でた。

コクピットでは上半身裸の武史が船を操縦していた。
肩幅が広い背の中は浅黒く日焼けし、首を隠す長い髪が夏のヨットによく似合っている。
前方に島影は無く水平線広がり積乱雲が一層大きさを増していた。

十号は黙って、操縦席の横の助手席に身を沈めた。
深々として柔らかなレザーの椅子だった。

「久々だわ、夏の海を見るのは。綺麗ね」
「君の方が綺麗だよ」
 武史が横を向いて十号にさりげなく唇を寄せてきた。
「あ」
 十号は小さな声を上げたが、あまりにも自然だったので十号はなんのためらいもなく武史の唇を受け止めた。

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