私は十号。超高級娼婦。青髭の館。

私は十号 09.パパ・ヘミングウェイ

ヨットハーバーの広々とした駐車場。シーズンとあって車がひしめいている。
黒塗りのワゴン車から二人の女が降りて来た。
二人のビーチガウンが風に翻り、二人の優雅な肢体が陽に曝される。
翠(みどり)と夏希(なつき)だ。

翠(みどり)は青髭の館の高級娼婦。
瞳は漆黒の真珠。目尻はもって生まれた切れ長で、セクシー。
顔には気品があり知性的だが、男を瞬時に虜にする妖艶さが漂う。
髪はショートカット。角度によっては、爽やかな美少年にさえ見える。
身長は165㎝程度でやや高め。水泳で鍛えた肢体は流麗な線を描き、剥き出しの肩はセクシーだ。
バストは決して大きい方ではないが、美しく盛り上っている。
白い紐型のビキニが申し訳なさそうに、引き締まった肢体を少しだけ隠している。
羽織るガウンは半透明でエスニックな花が乱れている。

夏希(なつき)は青髭の館の助手だ。翠の付き人でもある。
翠より年下。20~22歳ぐらい。
髪は黒々としたセミロング。
大きな黒い瞳。目は若さのエネルギーできらきら輝いている。
唇は夏にふさわしく鮮やかなスカーレット。
身長は160センチを少し超えたくらい。突き出たバストはFカップ。
伸びやかな肢体を真っ青なビキニの水着が強調している。
その上に白の半透明のビーチガウンを羽織っている。

二人は夏の日に白亜に輝くセンターコートに向かった。
潮風に吹かれてガウンがを舞う。
二人がよぎるとほとんどの男は振り向き、その誘惑的な背中に固唾をのむ。
正面の大きなガラス張りの入り口で白髪の男が手を振っている。
白いポロシャツとベージュの半ズボンが清々しい。ヨットハーバーによく似合う。
夏希が男に応えて手を振る。

「私のパパよ」

翠に囁く。
若く輝く顔に屈託のない笑顔が浮かんでいる。
夏希は初老の男に飛びつき、首に手を回し、いきなり唇を突き出す。
飽きれている翠の前で、二人は暫く熱い接吻を交わす。
やがて、唇を離した男が翠に顔を向ける。

「やあ、十号さん。初めまして」

白髪と云い、白い髭と云い、その思慮深い瞳と云い、アメリカ人の作家のアーネストヘミングウェイにそっくりだ。
とっくの昔に死んだ世界的に有名な作家である。翠はどこかでその肖像写真を見ていた。

「十号、あなたを紹介動画で観させてもらったよ。やはり、いや、期待以上の素敵な女性だ」

翠はその一言で十号へと切り替わった。

「パパと呼んでくれ」

パパが翠に言った。右手は夏希の腰を抱いている。
「夏希のパパ? 愛人のパパ?」
「ははは、ストレートだね」
「パパ・ヘミングウェイのパパよ、皆そう呼んでいるの」夏希が言った。
「はい、パパ」
十号は笑顔で男にそう答えた。
「今日はありがとうございます。ご指名頂き……」
「いや、私じゃないんだ」
「えっ」
「ま、とりあえずわがヨットへ」

そう言ってパパは女二人を浮桟橋へエスコートした。
潮の匂いが濃くなった。風も潮の粘り気を増した。
桟橋は穏やかな波で微かに揺れている。
地上では感じられない足元の揺れが、別の世界へといざなう。
数多くのヨットが繋留されていて、夥しいポールが林立している。
ポールには何本ものロープが絡まり、それが風に揺れる度に金具が、カン、カン、カンと硬い音を響かせる。
八月の白熱した光が空と海とヨットとハーバーに降り注いでいる。
空の蒼さを背景に舞い飛ぶ鴎の白が幻想的だ。

桟橋の先端にその船はあった。
白い船体上部に青く太い字でHOPE、希望と書かれてある。
船頭部に帆走用のポールが聳えている。船側から伸びた複数のロープで桟橋に繋がれて、今ヨットは鎮まっている。
船尾には操縦用のデッキスペースがあり、強い日差しの中で一人の男が手を振って出迎えた。
日焼けした顔の中で白い歯が輝いている。
逞しい腕を差し伸べて、女達がが揺れる桟橋から乗船するのを助けた。
十号を握ったその掌は力強く熱く、男の欲情が一気に心に飛び込んで来るようだった。

「ようこそ十号さん。武史といいます」

人懐っこい笑顔に深みのある黒い瞳が蠱惑的だ。
名前は金城武史(かねしろたけし)と云う。
あとで知ったが、パパの付き人的存在だ。
料理や簡単な洗濯、仕事上の秘書的役割、ヨットの点検や保守作業そしてクルージングなど、多岐にわたる。
言葉を換えれば、多機能家政夫だ。

「熱いでしょう、とりあえず中へどうぞ」

そう言って武史がみんなをデッキへと招き入れた。
デッキは屋根に覆われていた。外からは分からないが、足を踏み入れると結構広い空間が広がった。

真ん中に小さなテーブルがあり、左右には談笑用のしたソファーが備わっている。
デッキの前方はコクピットなっていていて、様々なモニター類や、操縦桿が見える。
ヨットハーバーの向こうに、夏の海が呼んでいる。
舳先にはあのポールが凛として空を仰いでいる。ご主人様の「ゴー!」という合図を待っている。

こじんまりとしたテーブルの上には、すでに、果物が並べられ、グラスが並んでいる。

「何飲みますか?」
武史がソファーの横の縦型冷蔵庫の扉を開く。
パックされた食材やビールやソフトドリンクが整然と並んでいる。

「俺はビール」先にパパが言った。
「私はコーラ」
「私はレモンスサワー」
夏希と十号が同時に口を揃えていった。

武史は子供をあやす目つきで、微笑みながらテキパキとグラスに注いだ。
十号と夏希には、見事なかち割り氷が添えられた。

テーブルを挟んで、左側にパパと夏希。
向かい側には十号と武史が並んだ。

「まずは乾杯」

パパが音頭を取った。そしてコップのビールを一気に飲み干した。
夏希がコーラに口半分ほど飲み、十号はサワーをパパに倣って一気に飲み干した。
武史は操縦をいしきして、薄目のグレープフルーツのサワーだった。

「武史さん、こんな大きなヨットが操縦できるんだ、ヨットの免許は?」
「一級船舶免許を持ってます。国内はもとより、アメリカでもどこでも海を渡っていけます」
「俺も持ってるよ」パパが付け加えた。
「凄い」

十号が感嘆しているア間にパパはもう一杯グラスを開けた。
そして隣の夏月を抱きよせ、深々と接吻した。
手を夏希の乳房に伸ばそうとした時、

「パパ、まだ駄目です、皆が見てます」

武史が軽くいなした。
実際、桟橋を行きかう人影が多くなってきていた。
ヨットのオーナーたちやその家族や友人、スタッフなどが集まりだしていた。

「そうだな」パパが不満そうに言った。
「そうよ」
夏希が悪戯っぽく笑った。

「あら」

十号が小さな声をだした。
武史がさりげなく十号の腰に手を回していたのだ。

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