愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき67 戦いの予感。ハニーの女を救えるか?緊迫の雨の漁港。r

2021/04/25

俺たちは雨が煙る船着き場で漁船を待った。
遠くの沖は雨の中に溶け揉み、空と海が灰色の中に溶け込んでいた。ワイパーが規則正しく左右に半円を描き、雨の膜を払っていた。

「なぜ、彼らは私たちを直接銃撃しなかったんだろう。彼らが撃ったのは、車やタイヤや路面や川ばかりよ。」凜が前方を見詰めながら言った。
「桐野が言ったように、俺たちに危害を加えるのが目的でなく、セルを奪うのが目的だからじゃないか?」
俺が言った。
「だけど、脚や、腕や、動きを封じるための攻撃もしてこなかった。俺たちは全員無傷だ!」
ブルドッグが言った。
「俺の最大の疑問は、なぜ奴らは俺たちの位置情報を知っているのかってことだ。さっきも黄金虫の昆虫ロボットを封じ込めたばかりだ。それでも、あの赤いセダンが俺たちの位置を知っていた。そして、蘭を拉致した。」俺が言った。
「奴ら、俺たちの目的地を知ってるんじゃないか?目的地を知っていたら、途中の逃走経路やアクセスを推測するのはたやすい」ブルドッグが言った。
「私もそう感じていたの」凜が言った。
「でも、奴らはそれを何故知ってる?」俺が言った。
「分からない」凜が言った。
「だから、きっと、あの赤い車は必ずここへ現れる。そして蘭とセルの交換を言ってくる」
凜が言った。
「セルは渡せない。でも、蘭は助ける」
「どうやって?」俺が言った。
「私たちの武器は、このレクサスとジープと、私が持っているトカレフと、蘭が残したトカレフよ。」凜が言った。
無線で聞いていた緑川が加わった。
「空砲のM4カービンがある。あれを棍棒代わりに使う」
「それはいい考えよ」凜が言った。

「それで?」ブルドッグが続きを促せた。
凜が建てた作戦はこうである。
赤いセダンを相手にまずレクサスとジープで攻撃する。
ひるんだ間に拘束されている蘭を凜と彩夏で救出する。
状況に応じて、ブルドッグと俺と緑川はM4カービンを振り回して敵を崩す。
必要なら、凜は、相手の男たちをトカレフで攻撃して、手足の行動の自由を奪う。
そして全員漁船に逃げ込み、沖の潜水艦に向かう。

「荒くて楽観的な作戦だな」俺が言った。
「今の段階ではそれで十分だ。小分隊長の作戦だ」ブルドッグが言った。
「ありがとう」
凜が目をキラキラさせて言った。
俺は初めての白兵戦に怖気づいていたが、なんとか勇気を奮い立たせていた。凜の役に立ちたいと本気で思った。

「来たわ!」
船着き場を見ていた凜が言った。
防波堤の向こうから小型の漁船が港へ入って来るのが見えた。船体は白く所々錆が浮いており、年代物の船だった。遊漁船の作りだった。船はゆっくりと岸壁に近づき、横づけの態勢に入った。

「奴らも来たぞ」
ブルドッグが言った。
漁港の入り口の方を見ると、予想通り赤いセダンが近づいて来ていた。その後ろに白いワンボックスカーの姿があった。

二台の車は五十メートルほど離れたところに停まった。白いワンボックスカーと赤いセダンは横に並び、バリケードを作るような構えで俺たちに対した。
俺たちから見て、前方斜め右に岸壁の漁船、正面に赤いセダン、その左に白いワンボックスカーという配置になった。

「赤いセダンの後座席に蘭と男一人、運転席に一人。横のワンボックスカーの前に二人、後に一人。敵は合計五人。」
緑川が無線で報告した。

俺たちはじっと彼らの出方を待った。その間に漁船は岸壁に船体を固定した。操縦室から一人のがっしりした男が出てきた。サングラスを掛け青い合羽を着ていた。男がレクサスに向けて大きく手を振った。
早く来い。
そんな意味を込めている様だった。

俺たちはなおも息を潜めていた。
雨の中で鎮まる赤いセダンが叙情的にさえ見えた。