愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき54 俺の女二人を追うドローンを撃墜せよ。r

2021/04/26

林が終わろうとしていた。林が終わると、高野町をよぎる幹線道路に出る予定だ。

俺はブルドッグに訊いた。
「ここから指定された田辺市の小湊漁港までの時間はどれぐらい?」
「順調に行って、二時間程度、十二時までには着いてしまう。十五時までには十分余裕がある」ブルドッグが言った。
「時間は十分として、ドローン対策はどうする?」俺が言った。
俺たちはその問の前で沈黙した。
ドローンは必ず俺たちを発見する。昨日、ランドクルーザーを爆破した連中だ。更に一層の強硬手段をとって来るかもしれない。
「彩夏ちゃん、どんなドローンだった?」
蘭が無線で、後方の彩夏に訊いた。

「腕が放射状にたくさん伸びていて、その腕の先でプロペラが回っていた。あまり見かけた事のない形だったわ。それに、機体の中心に何か銃らしいものを吊り下げていたみたい。」
「ふーん」
そう言って蘭は暫く考え込んだ。そして凜に問いかけた
「ね、凜、それって軍事用のドローンじゃないかしら?どこかの資料で見たことがありそうなんだけど。」
「私もそう思う。自動小銃や小型銃火器を装着できるタイプだと思う」
「でも、形からして、原始的ね」蘭が言った。
「そうね、初期型ね」凜が答えた。

「蘭ちゃん、ドローンに詳しいね」ブルドッグが言った。
「私たちは、最低限の軍事関連知識も教えられるの。ドローンもその一つよ。」

蘭の説明によればこうである。
ドローンとは、もともと雄蜂を意味する英語が語源らしい。簡単に言えば無人航空機、無人飛行機のことである。
形態で見ると、一番知られているのが、ヘリコプターの回転翼をたくさん取り付けたようなマルチロータリー型。次いで軍事の世界で多いのがいわゆる偵察飛行機型である。最近では、水中を移動する水中用ドローンもある。
更に、世界的に研究されているのが鳥形ドローン、昆虫型ドローン等の小型ドローンである。昆虫型などは、小さな蜂のように飛んで、ターゲットに突撃し自爆して、ターゲットを殺害破壊するらしい。蘭たちが奪った、セルも、考えようではドローンに分類されるという。

「あのマイクロセルが複数集合して翼機能を形成すると、昆虫のように飛んだり移動することが出来るんだって、劉さんが誇らしげに言ってた。」蘭が付け加えた。
「彩夏ちゃんが見たドローンが、初歩的なマルチローター型だとすると、高度は三百メーターから千メーター程度の上昇が可能。時速は八十キロから百キロ程度かしら」凜が言った。

それを聞いていた緑川が無線で言って来た。
「高度五百メートル程度だったら打ち落とせるで」
「打ち落とす?」俺が訊いた。
「そや、撃ち落とすんや、そこのレクサスにはM4カービン銃が4丁積んであるんや。カリヤさんの指示で特別にオプションで付けてくれた。そのカービン銃の有効射程距離は五百メーターや」
「五百メーター以上だとどうする?」俺はさらに訊いた。
「おびき寄せたらどう?」凜が言った。

おれは思わず隣の凜を見た。凜の瞳がキラキラ輝いていた。
冒険心と好奇心、そしてジェットコースターにでも乗るようなワクワク感に溢れている顔だった。
「そや、おびき寄せるんや、おびき寄せて撃ち落とすんや」無線の向こうで緑川が嬉しそうに言った。
「失敗したら?」俺はさらに訊いた。
「全速力で逃げるんや。相手は時速百キロ程度が限度やろ。こっちは二百キロでも軽く出せるで」緑川が言った。
「おもろい、おもろい」ブルドッグが野太い声で笑うように言った。

皆のノリで、ドローン撃墜作戦が決まった。
こいつら本当にどんな神経しているのか?俺は内心あきれていた。
彼らに比べると、おれはとてつもない臆病者に思えた。

「よっしゃ、それやったら、竜神スカイラインを南へ下ろう。途中、ドローンに見つかったら、ドローンを撃墜する。奴らのワゴン車に見つかったら、状況を見て逃げるか蹴散らす。奴らが銃撃してきたら、M4カービンで破壊し、突破する。」ブルドッグが言った。
「乱暴な作戦ね」凜が言った。
「私はナビで竜神スカイラインの支線を探しておくわ」蘭が言った。
「じゃ、私はカービン銃を用意しておく、車停めて社長さん」
凜はブルドッグにそう言ってレクサスをを停めさせた。
「凜ちゃん、カービン扱えるんか」
「M4カービンやアサルトライフルは結構練習したわ」

そこへ緑川のジープが来て停まった。緑川が運転席の窓ガラスを下ろした。
「俺たちにもカービンをくれ」緑川が言った。
凜はレクサスの後部のドアを開けた。様々な装備品の中に、M4カービンのセットが四個納まっていた。
凜はそれらを手際よく組み立てた。
助手席から降りてきた彩夏にが黒光りのするM4カービン二丁と予備の弾倉を手渡した。

凜は、カービンの釣り皮を肩から斜めにかけた。ボーイッシュなスタイルに銃がよく似合った。
彩夏もそれに習った。
「凜ちゃん、似合うわ、女ゲリラみたい」彩夏が言った。
「ありがと。彩夏ちゃんも似合ってるわ。」そう言って、凜は彩夏の頬に軽くキスをした。

M4カービンで武装した俺たちは、高野山を後にして竜神スカイラインを目指した。
その更に遥な先の和歌山の海では、潜水艦が待っているはずだ。