スワッピング・悦楽の四重奏

四重奏43 男とのセックスの後のむなしさ。何故?

藤枝が、ペニスを失ってから密約を結ぶまでの経緯を思い出していが、私はそれを振り払った。

光を透すほどの薄い春布団の中で、私は藤枝に身体を絡ませていた。
ペニスの無い全身ケロイドの藤枝は、舌と指で私を深く執拗に愛撫した。
唇から乳房、恥丘から花唇、肉の芽、そして、裏返されてアナルまで、私は隅々まで愛撫された。

私も、唇や舌、指、乳房、太腿等、体の全てを使って、彼のおぞましい身体を愛撫した。
二人の行為は、性器結合かそれ以上の快楽に満ちたものだった。
私は何度もオーガズムの嵐に襲われ、その度に、悦楽の声を必死で押し殺した。

いつの間にか意識が途絶えていた。
目が覚めると、布団の中で、私一人だった。
部屋から見える庭には、木々や牡丹の花の上に、夕闇が降り始めていた。
藤枝の影も形も、声のかけらもなかった。
私は全裸で、孤独だった。
藤枝との密会の後はいつも孤独だった。

薄明かりの中で、服を着、髪を整え、そそくさと化粧を直した。
そして、布団の間を出て、隣の会食の間で呼び鈴を押した。

やがて昼間の女将が出て来た。
「お帰りですか?」
「はい」
私は顔を伏せながら、短く答えた。
「では、こちらへどうぞ」
そう言って、女将は先頭に立って私を案内した。

女将は、来たと時とは別の廊下を、どこへともなく先導した。
幾つか角を曲がり、庭をの飛び石を辿り、庭をめぐり、やがて小さなくぐり戸へと案内された。
「お気をつけて」
女将は、昼間見せたと同じ、妖艶な笑みを浮かべた。

そこは料亭の屋敷の外れだった。
細い路地が続き、やがて大きな通りへ出た。
私の知っている、いつもの都会が広がっていた。

藤枝専務と私の関係は、完璧な秘密で無ければならなかった。
だから、会う時も別々に来て、別れる時も、別々に部屋を出るのだった。
逢引きの悦楽が激しかった分、別れた時は深い孤独と虚しさが襲って来るのだった。

夕暮れの都会の光の下を、私はうつむいて歩いた。
周りには、車の音や、繁華街の騒音が満ちていた。

会いたい
誰に?
私は心の中で呟いていた。

あの優しい夫か?
夫の優しさで慰められたいのか?
違う。

葉月か?
あの美しい顔と、美しい身体の男に抱かれたいのか?
違う。

男ではない。
男の荒々しい性ではない。
美帆だ。
私は突然、美帆の存在に思い当たった。
美しい、凛とした、自立した女の声と体だ。
美帆!

私はスマホを取り出して美帆に電話をした。
しかし、呼び出し音が鳴るばかりだった。
わたしは、軽い失望感に襲われながら、駅へと向かった。
行く当てがなかった。

人でごった返す駅前で、途方に暮れて、夕闇の都会の空を見上げた。
快楽の去った後は、なぜこんなにも孤独なのだろうかと思った。
快楽の恍惚の時間、輝く時間、発熱した時間は、一瞬にして弾け、後には永遠という底なしの闇が広がっていた。

涙が出そうになった。その時、スマホが鳴った。
美帆だった。

電話くれたのね
会いたいわ、由希

会いたいわ、と先に言ったのは美帆の方だった。嬉しかった。

すぐ会いたい、美帆!

私は電話で泣くように言った。
私は歓喜していた。

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