スワッピング・悦楽の四重奏

四重奏12 私は黒いガーターが似合う女?r

2021/04/26

鏡の中の自分を見ながら、自分についてあれこれ雑念が浮かんでは消えた。

私の仕事は中堅広告代理店のクリエイティブ局第一部の総合ディレクター。職位で言えば部長職だ。
高級乗用車や高級ファッションブランドを主に扱っている。部下は三十人程度。クライアントの課題ごとに、マーケティングプランナー、コピーライター、イラストレーター等でプロジェクトチームを編成する。常に三つか四つのチームが編成されて動きまわっている。
私はそれらのチームを統括し、必要に応じて外部の制作プロダクションを活用する。複数のクライアントの課題を同時並行で進めることが多く、いつも時間に追われている。
そんな私の右腕的存在が、恭介が経営する制作プロダクションだ。

社内外から自分への様々な噂があるのは知っている。
異例のスピードで部長クラスまで出世した二十八歳の女。
役員の誰かと寝たに違いない。
計算高い功利的な女。
社内トップファイブに入る美人。
一度は抱いてみたい女一位。
あのスーツの下は黒いガーターの筈。
すましているがセックスは濃厚、等々。

だから何?
私はそんな顔をして社内を歩いているのだろう。

私には時間がない。
夫にも時間がない。
だから二人のセックスはおざなり。
またセックスそのものにも飽きが来たのか?
もう互いの体に新鮮味は残っていないのか?

そう考えると、今朝の恭介とのセックスは強烈で新鮮そして大胆だった。
彼の唇と蛇と舌の感触が蘇ってきた。微かに蜜壺が湿って来るようだった。
私は、破廉恥女になってしまったのか?

様々な想念の中に、不意に、危険だ、という信号を感じた。
自分は大変なことをしでかしたのではないだろうか?
外注先の男と寝るのは、極めてスキャンダラスな行為なのだ。もし発覚すれば、不正取り引きの疑惑に晒されてしまうだろう。
まして日ごろから発注量の多い恭介のプロダクションだ。
私の属するクリエイティブ局や第一課に監査が入ったり、私自身査問会議にかけられたりするだろう。
不正は無いと結論付けられても、恭介と寝た噂は社内外に広がり、クラインとが契約を解消する可能性もある。
そうなれば、私は今の会社にはおれなくなる。
否定的なことばかりが浮かんでは消えた。

いずれにしろ、恭介との今朝の出来事は絶対発覚してはならない。
今後、彼との交際もあってはならない。
私はそう決心した。

浴室から出て裸の上にそのままガウンを羽織ると、たちまち気が緩んだ。
冷蔵庫から缶ビールを取って来て、一気に飲んだ。
美味しかった。
全身の力が抜けて行くのが心地よかった。
居間のソファーに腰を降ろすとそのまま眠り込んでしまった。