愛人契約

愛人契約04.男は女に身を売ったr

2021/04/26

女はバッグの中のを探って、剛一に拳を差し出した。そこには無造作に万円札が握られていた。
「ここに十万円あるわ。これで貴方を買いたいの」
「ちょっと待って。俺を買ってどうするの?」
女は暫く沈黙した後、小さく言った。
「私とセックスして!」
「ん?」
剛一は一瞬戸惑い、そして思わず笑ってしまった。

「何かの冗談?冗談はやめて欲しいな。今の俺は疲れ切っているんだ。早く眠りたいんだ。」
「笑わないで。!冗談じゃないわ。本当よ。このお金で私を抱いて!」
剛一は女に顔を近付けてその瞳を覗き込んだ。

年のころは二十代前半と思われる。瞳は涙にぬれているが、世界は全て敵だと言わんばかりに、力がこもっていて輝いていた。
意思の強そうな唇が、今は泣くのを我慢して震えていて、頼りなく幼くさえ感じさせた。

髪はショートカットで少し乱れており、首筋には数滴の汗が光っていた。
着ているものといえば典型的なホステスファッションで、肩と胸元が大きく剥き出しており、大きな花柄のミニスカートをはいていた。
ミニスカートからは見事な脚が二本飛び出していた。そして、彼女の全身からは怒りのエネルギーようなものが溢れ出ていた。

「分かった」
そう言って、剛一は彼女の拳からくしゃくしゃの万円札の束をもぎるようにして受け取った。

「じゃ、どこへ行きますか?」
剛一は微かに笑いを浮かべて、ご主人様に応える語調で軽やかに訊ねた。
女が指定したのは都内の一流ホテルだった。
「いいホテルですね」
都内では有数のホテル、で剛一も仕事でよく使っている。料金もそこそこである。
「そうね。少し高いわね。いいの。早く行って。」
「分かりました」
剛一はそう答えて車を発進させた。

女を見ると、周りの世界は存在しないとでも言うように、その瞳は真っすぐ夜の都会を見つめていた。
剛一は黙ったまま何も聞かず車を走らせた。

やがて歓楽街の光が消え、落ち着いた街並みが広がり、前方に気品のあるホテルの姿が見えて来た。
沈黙を破って剛一が言った。
「俺は桐野鋼一。あなたは?」
暫くの間を置いた後、彼女は小さな声で言った。
「由香里。蒼井由香里。」